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感情や衝動に振り回される 愛は盲目

 感情や衝動に振り回されるとは、どういうことでしょうか? 怒りや攻撃性の衝動については、しばしば「キレる」という言い方をしますが、何が切れることを意味しているのでしょうか? これが今回のお題です。

  感情や衝動といったものは脳の古い部分(辺縁系)で生じ、脳の新しい部分(大脳皮質、特に前頭前野)がそれを抑えたり優先順位付けをして適切にコントロールしているのだろうと考えられています。これは、怒り・攻撃性についてもそうですし、性的欲動についてもそうですし、悲しみや不安についてもそのようです。

  例えば、性的欲動を前頭前野が抑えていることを示すBeaureardらの研究(2001年)があります。
  実験では被験者の男性にエロビデオを見せながら脳の活動性をfMRIで測定するという方法を使っています。すると、ビデオを見ながら性的に興奮するがままにしていた時に比較して、性的な欲動を意図的に抑えようとすると、前頭前野の活動性が上がり、辺縁系や視床下部の活動性が下がっている事が確認されました。つまり、前頭前野が感情や衝動をつかさどる「古い脳」を抑え込んでしまったのです。(視床下部は性的欲動の身体面での発現に関連していることが知られています。)

  同じBeauregard先生は、別の実験(2003年)で、今度は女性被験者を対象に悲しいビデオを見せてストーリーに没入して悲しんで良い時に比較して、悲しさという感情を意図的に抑えようとした時では、やはり前頭前野の活動性が上がっていることを示してもいます。

  さらに、「身もふたもない精神医学の話」でも紹介したPietriniらの実験(2000年)では、暴力性や攻撃性のコントロールに前頭前野が重要な「抑え」としての役割を果たしていそうなことを、面白い方法で示しています。被験者はfMRIで脳の活動性を測りながら「あなたが、お母さんと一緒にエレベーターに乗っていたら人相の悪い男2人が入ってきた」という状況を想像するように指示されます。「暴力を我慢する」課題では、「その男2人があなたのお母さんを殴ったりするが、あなたは我慢する」という状況を想像するように指示され、「暴力を我慢しない」課題では被験者に空想の中で反撃が許可され「あなたは、その男2人を半殺しにするまで殴る」という状況を想像するように指示されるのです。その結果、暴力をふるって良い時には図に示すように前頭前野(特に内側)で脳の活動性が低くなることが観察されたのです。

  私たちの感情・衝動には、暴力や攻撃性につながる憎しみもありますし、性行動につながる性欲もありますし、悲しみや不安などといったネガティブな感情も、喜びや幸せといったポジティブな感情もあります。一般的に、ポジティブなものでもネガティブなものでも、その感情・衝動が強いと私たちは「我を忘れる」ほどに感情・衝動に振り回されることになることがあります。前頭前野からの支配が「キレる」という現象は攻撃性・暴力性だけに限ったものではないわけです。

  例えばBartelsらの研究では、「愛情」という情緒に注目し、被験者に恋人の写真を見せたり、子どもの写真を写真を見せたりしながら、脳の活動性を測定する実験を行い、そのどちらの種類の「愛情」でも前頭前野の活動性が低下することを示しています。Bartels先生は「『愛は盲目』と言われるのは本当だった」というような言い方をしています。
  活動性が低下する前頭前野の部分は共感性に関連した部位であり、この活動性が低下するということは、つまり「相手の気持ちを察する能力」が落ちるということを意味します。愛情とは相手の気持ちを大切にし思いやることであるはずなのに、何だか変です。

  しかし、ある意味ではもっともな気もします。恋愛の初期などは特にそうでしょうが、「愛情」というこちら側の一方的な気持ちをぶつけていくわけですから、相手の気持ちを思いやっていたら全然先に進めるはずもないのです。「恋の病」で多少ヘンになってしまっていた方が、恋愛を進展させる行動を起しやすくなるのであり、それによって相手の恋愛感情を引きだして行けるのであり、その意味で進化の過程で生存競争上より有利だったのでしょう。

  同様なことは怒り・攻撃性・暴力性についても言えます。怒りにまかせて相手に暴力をふるおうとする時に、相手の痛みや辛さなどに「共感」してしまっていては、効果的に攻撃行動をすることができなくなります。進化の過程で生存競争上より有利なのは、攻撃性・暴力性を発揮する時には、前頭前野の働きを一時的にでも抑え、余計な「思いやり」の気持ちを排除することだったのでしょう。

  性的欲動に関連した性行動についても同様でしょう。私たちは普段は服を着るなどして隠すべきところは隠し性的なものに「封印」をしているのと同様に、普段は前頭前野が多かれ少なかれ性的欲動を抑えています。逆に性的欲動の封印を解き、性行動に至る時には前頭前野の活動性を一時的にでも抑えておかないと、(おそらく羞恥心やその他のネガティブな感情が先にたってしまって)効果的に性的行動を行う事が難しくなるのでしょう。

  だから、性的興奮が盛り上がっている時にした性行為をビデオか何かで記録しておき、後で興奮が冷めてから冷静な頭になって見てみたら、意外なほど「なんてお馬鹿になっているんだ」とショックを受けるかもしれません。
  ・・・まあ、わざわざそんなことをする人はあまりいないでしょうけど。

参考文献:
Beauregard M, et al. Neural correlates of conscious self-regulation of emotion. Journal of Neuroscience, 2001

ーーーーー
というような記事があったのだが
まあ、そうなのだろう





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